景色の記憶-1

 渋谷からの東横線が走る目黒区と、井の頭線沿線で私は育ち今に至っている。
その頃の車窓からは、クーシュー(空襲)で焼けなかった瓦屋根の木造住宅が立ち並び緑も豊かな、そんな景色を鮮明に記憶していて、焦げ茶色の家並みが見知らぬ街の夢に度々出てくる。
 幼い記憶に残るその街はそれから何十年も経過して、今でも同じ地面の上に家々は建て替えられ、すっかり景色は変わってしまっているのに、これからもなお同じ地面の上で景色は変わり続けるのであろうという、なんとも不確かな予感がある。
 こんな想いを表現に含めるとしたら、ー近年はじめた、紙や布の細片を仮の支持体に貼り込み、乾燥させて固めた後この支持体を取り去るーという方法が、この不確かさの表現には相応しく思えるのである。


ー「東京地図」発表に寄せてー

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